シューベルト「菩提樹」 訳詞:近藤朔風(1880.2.14生まれ)


シューベルト「菩提樹」  近藤朔風訳

1.
泉にそひて、繁る菩提樹、慕ひ往きては、
美(うま)し夢みつ、幹には彫(ゑ)りぬ、ゆかし言葉、
嬉悲(うれしかなし)に、訪(と)ひしそのかげ。

2.
今日も過ぎりぬ、暗き小夜なか、眞闇に立ちて、
眼(まなこ)とづれば、枝は戦(そよ)ぎて、語るごとし、
来(こ)よいとし侶(とも)、こゝに幸あり。

3.
面をかすめて、吹く風寒く、笠は飛べども、
棄てゝ急ぎぬ、遙(はるか)離(さか)りて、佇まへば、
なほも聴こゆる、こゝに幸あり。


今日が127回目の誕生日になる明治時代の訳詞家近藤朔風(さくふう:1880-1915)。「菩提樹」「ローレライ」「野薔薇」などの訳詞はあまりにも有名ですが、35歳余りで早世したこともあり、その業績も上記の数曲を除き遠い過去のものになってしまっているようです。前回ご紹介した『雀の子』のように、クラシック歌曲の日本語化は原詩と関係ない替え歌であった時代に、原詩に沿った訳詞を試み、その後100年も歌い継がれている名訳を残した朔風の偉大さは忘れられてはならないでしょう。当HPでは今後朔風の訳詞を掲載していくつもりです。

第1回はちょうど今取上げている『冬の旅』から「菩提樹」。言うまでもない朔風の代表作ですが、楽譜により歌詞や漢字と仮名の使い分けなど異同がかなりあります。そこで今回、国会図書館で生前の出版譜(明治43年『女聲唱歌』)を参照して来ました。朔風自身が眼を通した一次資料としてまずは決定的と言って良いのではと思います。ご参考になれば幸いです。

楽譜の方は原曲そのものではなく、ジルヒャーの編曲かそれを元にしたものと思われ、短調に転調しない民謡風有節歌曲の形の女声二部合唱です。著作権は消滅しているので、後日画像を掲載の予定です。

歌うための訳詞という制約もあり、原詩の語を少なからず省略してはいますが、日本の風景に置き換えられながらも、人の心の中にある「原風景」として見事に機能している素晴らしい訳だと思います。

なお、朔風は訳詞のための号であるようで、表紙には編者として本名の近藤逸五郎(いつごろう)が記され、本文中の訳詞者名は朔風と表記されていました。
(2008.2.14 甲斐貴也)

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この記事へのコメント

ルリマツリ
2008年02月15日 23:58
>楽譜により歌詞や漢字と仮名の使い分けなど異同がかなり あります。そこで今回、国会図書館で生前の出版譜(明治 43年『女聲唱歌』)を参照して来ました。

古い楽譜では仮名遣いなどが異なっている事があります。
貴重な資料をお調べになって正確なものをupしていただけて、どちらが正しいのだろうなどと迷う事もなくなりました。文語調の詩を読む事が出来るのも楽しいですが、なんだか重大な事を始められたような感じがします。これは余計な心配ですね。
近藤朔風の名も後世に残ってほしいですし、私たちもその名を折にふれて思い起こしたいものです。これからも大切に読ませていただきますし、また期待しています。

古い楽譜を少し持っているので、尋常小学唱歌や外国の合唱の楽譜の話など興味深いです。



甲斐
2008年02月16日 12:03
ルリマツリさんコメントありがとうございます。お役に立てましたようで幸いです。

>なんだか重大な事を始められたような感じがします。

むむむ、これは大変(笑) しかし、「正確」と称して自分が写し間違えたら本当に重大な責任になりますね。なるべく慎重に時間をかけてやるつもりです。
山爺
2011年02月10日 11:59
成人学級卒業生で「抒情歌を歌う会」を結成。満10年が過ぎました。指導者は武蔵野音大卒のソプラノオペラ歌手「金光順子さん」です。今回「菩提樹」を取り上げ、勉強しました。平均年齢67歳です。

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