シューベルト:『冬の旅』(6)「溢れる流れ」


6.溢れる流れ

僕の眼から涙がいくつも
雪の中に滴り落ちる
冷たい雪片が貪るように
熱い悲しみを吸い尽くす!

やがて緑が芽吹く頃
暖かい風が吹きよせれば
氷の塊は砕け
緩んだ雪も解けてゆく

雪よ、僕の想いを知っているな
お前がどこへ行くのか言ってくれ
僕の涙について行けば
やがて小川に受けとめられる

あの町の中を一緒に通り
賑やかな街路を次々くぐる・・・
僕の涙が熱くなるのを感じたら
そこが僕の愛する人の家なのだ


Wasserflut

Manche Trän' aus meinen Augen
ist gefallen in den Schnee;
seine kalten Flocken saugen
durstig ein das heiße Weh!

Wenn die Gräser sprossen wollen,
weht daher ein lauer Wind,
und das Eis zerspringt in Schollen,
und der weiche Schnee zerrinnt.

Schnee, du weißt von meinem Sehnen:
Sag, wohin doch geht dein Lauf?
Folge nach nur meinen Tränen,
nimmt dich bald das Bächlein auf.

Wirst mit ihm die Stadt durchziehen,
muntre Straßen ein und aus-
fühlst du meine Tränen glühen,
da ist meiner Liebsten Haus.


この曲の題名には古くから「溢れる涙」という訳がありますが、直訳で「溢れる水」のところ、詩の中に別に「涙Tränen」という語がありますから、訳語としては問題なくとも同じ「涙」は避けたいです。しかしもちろん、詩の中に出てこないこの”Wasserflut”という題、単なる溢れる水ではないに決まっていますね。それが春の雪解け水なのか、共に流れる涙なのかは、読む人それぞれが感じればよいことだと思います。
指定はLangsamですが、わたしの好みとしてはあまり遅いのは、ここで流れが滞るように思えて苦手です。大好きなフィッシャー=ディースカウ&バレンボイム盤も、この曲に4分30秒もかけている(普通は4分前後)のが唯一引っかかるところでしたので、後年のブレンデルとの録音が40秒も短縮されているのは我が意を得たりでした。
(2008.2.17 甲斐貴也)

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この記事へのコメント

other_wind
2008年02月19日 21:58
ほっとする「菩提樹」の後の第6曲「溢れる流れ」は、その対比もあって、とりわけつらく感動的に聴こえます。
引きずるようなピアノの足取り、各節の最後のフレーズを繰り返して強く訴えるところなど、はらわたをえぐるようで鳥肌が立つくらい感動します。
断ち切れない想いがひしひしと伝わってきます。
ベルヒトルト(Berchtold)のテノールで聴きましたが4:37でした。
甲斐
2008年02月20日 08:46
コメントありがとうございます。
「菩提樹」との対比とのお話は大変頷けるものがあります。その感動には曲はもちろん演奏の良さもあったのでしょうね。ベルヒトルト、チェックしておきます。

フランツ
2008年02月24日 22:55
甲斐さん、こんばんは。
第6曲目はタイトルをどう訳されるのかを楽しみにしていました。私も「あふれる涙」という一般的な訳はWasserflutのイメージを限定してしまうのでもう少し適した訳がないかと思っていたのですが、「溢れる流れ」なら原語に忠実でありながら、意味を限定しない訳になっていていいですね。
この詩、もしヴォルフだったら通作形式で作曲していたでしょう。シューベルトは第1節の後半と第4節の後半に重点を置きたかったので、2節ずつの有節形式をとって、第2節や第3節の後半も盛り上がることになってしまったのでしょう(この部分は内容的には必ずしも高揚することが求められていないと思います)。この辺の詩に応じた扱いは演奏者の表現に委ねているのでしょう。
私もこの曲はだれずに少し速めに歌ってほしいと思います。
甲斐
2008年02月25日 20:30
フランツさん、コメントありがとうございます。
この詩の題も訳が難しいです。「溢れる流れ」も、やっと自分で慣れてきました(笑)
仰るとおり、有節歌曲は詩と音楽が一致しなくなる部分の歌手の解釈が聴き所ですね。

この曲、特にミュラーの「冬の旅」について、興味深い情報をいろいろ集めているのですが、なかなかまとまりがつきません。いまのところ、ナポレオン~ウィーン体制下の社会状況の反映であるミュラーと、より普遍的な孤独と疎外を描いたシューベルト、といった印象を受けています。初めのころ書いた、オカルト風解釈指向は立ち消えとなりました。奇妙な現象はほとんど自然現象として説明できるとわかりました。いろいろ恥を書き捨てながら進む旅になりつつありますね、トホホ(笑)

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